或るロリータ

A Certain Lolita

文章の距離適性

かつてTwitterが登場したとき、1ツイートにつき140文字という制限が、人々を発信へ駆り立てた。私もその例に漏れなかった。 ブログには書こうと思えばどんなに長い文章だって載せられるけれど、何文字でも書いていいと言われて、実際に何文字でも書ける人は…

好きな街での日々の中でも、遠い故郷の夢を見る

夕方、自転車に乗って買い物に出かけるとき、赤や紫に染まってゆく空を眺めて、胸の奥がざわざわするのを確かめると、私はいつも嬉しくなる。生活の中に埋もれていった青春の火が、深い灰の底に、まだ幽かに残っていることを思い出させてくれるからだ。 学生…

東京に染まれなかった

東京は良い街だ。いや、正確にいえばとても便利で、平等で、たくさんの可能性がある街、だろうか。職も、娯楽も、人との出会いも、私の生まれた田舎町なんて、質も量も比べる対象にすらならない。それくらい、東京になくて田舎にあるものなど、ほとんどない…

明け方症候群

私はあまり集中力のつづく人間ではない。仕事をしている最中も、頭の中では「早く夜になってビールを飲みたいなあ」などと考えているし、物事に対して意識のすべてを注いで取り組むということがない。とにかく自堕落な人間なのだ。 ただし、世の中の何もかも…

沈んでゆくTwitterという島で

Twitterがなくなる、という話題が飛び交っている。でも心のどこかで、きっとなくなることはないだろう、と思っている私がいる。だってこんなに長い間、ずっと当たり前にあり続けてきたんだから。そうしてこれからも、ずっと。そう信じていた。 若者の主流は…

あの頃の未来を過ぎて、どんな風に生きてゆくか

夏が好きだと叫びつづけてきた私だけれど、冬にしか思い出せない記憶もある。朝、外に出た瞬間の澄んだ空気に目が醒める清しさや、短い真昼の陽だまりにまどろむ心地よさ、あるいは肌寒くなってきた夕べに南の窓を閉める直前、ふと漂ってくる夜の匂いに紛れ…

この10年間、そばにはいつだってブログがあった

こうしてキーボードを叩くのもかなり久々である。一つ前の記事が去年の年明け、まだ世界がコロナ禍に突入する前だ。 そんなに長いこと文章を書いていなかったのかと、この二年ほどを振り返ってみる。たとえるなら夏休みの補習のあとの静まりかえった校舎をそ…

そうして私は書けなくなった

文章を書くのが好きだった。それに気がついたのは中学二年生の頃。それまで私は周りのクラスメイトと比べても文章が特別に上手いわけではなかったし、私より整理された思考を持ち、私より美しい表現ができる人は幾らでもいた。決して「文章が上手い人」と尋…

初めての転職が、人生の大きな一歩になった

私は人生で三度、転職を経験した。 環境を変えるのは、勇気と体力がいることだ。特に転職となると、会社によって規則や雰囲気はバラバラだし、正解は決してひとつではない。とりあえず一定期間を過ごせば自然に卒業できる義務教育とは違った、自発的なエネル…

もう一度ふるさとに帰れる日のために

昨年の暮れ、私はある分岐点に立っていた。人生の明暗を分ける決断をしたのだ。仔細に書くことは憚られるが、私の生活は少しだけ変わることとなった。仕事の幅がより広がり、自由になった反面、これまでよりはるかに重い責任を背負うこととなったのだ。今は…

そうして私たちは大人になった

昨晩から泊りがけの用事があったため、最寄駅に戻ってきたのは朝の早い時間だった。今日は成人の日だ。休日の穏やかな空気と、祝日の少し浮かれた空気とが混ざり合った街の中を、「振袖姿の娘とすれ違わないかなあ」などと思いながら歩いたが、まだ早い時間…

一年が終わるたび、思い出す人がいる

年末年始の雰囲気がとても好き。学生は一足先に冬休みに入って、大人は気ぜわしく仕事を畳みにかかり、みんなどことなく浮き足立った、あの数日間が。クリスマスのロマンチックな雰囲気から、一気に年の瀬へ駆けてゆく感じ。テレビ番組はとにかく毎年おんな…

心はいつまでも少年のまま

いつになったら自立できるのか、そんなことは考えずに過ごしてきた。小学生の気分のまま中学に進み、いつのまにか高校生になった。実家にいれば毎日あたりまえにご飯が出てきて、大きな家に守られて、いざとなれば責任なんて負う必要もない。自らの部屋に逃…

ふるさとはいつまでも青い思い出の中に

私のふるさとは九州の片田舎、大分県である。よくこういう紹介をすると、「大分ってどこ?」そんな期待通りの反応をいただくことが多い。年配の方だと「昔一度行ったことがある」とか、もっと年配の方だと「私のころは新婚旅行で別府に行くのが流行ってた」…

森田童子が死んでしまった

毎年六月になると必ず思い出す曲がある。切っても切れないみずいろで、私の心をつなぎ留めている儚い歌声がある。どこへ行って何をしようと、街も季節も私自身もすべて変わってしまっても、かならず戻れる場所がある。弱くて優しくてふるえてばかりいたあの…

「後悔」ってそんなに悪くない

誰より故郷が好きだった私を突き動かしたのは、他でもなく積み上げてきた後悔だったのかもしれない。後悔……あのころの私には、とにかくそれしかなかった。 青春と呼ばれるはずだった時代を、私はすべて後悔に費やした。あるときは立ち去ってゆく少年時代の面…

限りない自由なんて、ただ淋しいもの

一人暮らしをしてみたいと、誰もが一度は思ったことがあるはずだ。特に思春期の時分には、親の愛がどこかうとましく感じられて、自分にはもうそんなものは必要ない、それより都会のアパートで一人暮らしをして、好きなものに囲まれた部屋で思うままに時間を…

お酒をやめることにした

突然だが、お酒をやめようと思う。これは目標ではなく、決断だ。思えば私は青春の終わり頃からずっと、お酒とともに生きてきた。遥かなる思い出の数々はそのほとんどが酔いどれだ。飲むことでしか夜の行き方がわからなかったし、一杯飲むごとに延長されてゆ…

淋しさがつのりすぎて「孤独」をテーマにした本を作ってしまった

青春時代を通して誰にも負けない唯一のものがあるとすれば、私にとってそれはどこまでも孤独であったということだけだ。恋も、遊びも、勉学も、十代の私には手に負えないものだった。私は誰からも期待されず、また、誰かに期待することもやめた。だから私は…

何かをやり残したと感じる夜にブログを書く

私がブログを書きたくなるのは、きまって後ろ向きな理由からである。仕事が上手くいっているとき、趣味を謳歌するのに忙しいとき、旧友たちと飲み明かしたとき……そんな日の私にはブログを書こうなんて発想はない。そもそもこのブログだって何の理念も目的も…

社会では「すり減らさなかった人」が勝つ

先日、中学校と高校をともに過ごした同級生から電話がかかってきた。内容は、気まぐれな近況報告みたいなものだった。彼とは学校で特別仲がよかったというわけではない。教室にほとんど話せる相手のいない私に対して、彼は成績は悪かったが部活だけはひたす…

思い出がお酒の味を変える夜

金曜日が好きだ。それは今でも変わりない。学校が嫌いで仕方なかった中学生のころから今日に至るまで、私は金曜日のために生きてきたといっても過言ではない。金曜日という黄金色の甘い時間のために、どんな辛い毎日にだって耐えるのだ。いつか、金曜日がく…

故郷から東京へ戻る飛行機で、昼と夜の隙間を見た

今年の夏は、いつにも増してあちこちへ旅に出た。そう言いながら、例年どこかへ出かけている気がするが。 初めて足を踏み入れた四国の地や、水色の瀬戸内海。棚田祭りや風鈴市、ひまわり畑など、夏を象徴するにふさわしいシーンは数え切れないほどあった。お…

「選ばない」という選択をやめた20代前半

私は何かを選んだことがない人間だった。生まれた田舎町でそのまま育ち、親や友達ともそれなりに仲良く、喧嘩をすれば普通に落ち込み、与えられた幸福には素直に喜ぶ少年時代を過ごした。だが、一歩間違えば、私の少年時代はもっと悲惨なものだっただろう。…

棚田に無数の灯りがともる「ホタルかがり火まつり」で素敵な夏のはじまりを

先日、秩父の方で行われた「寺坂棚田ホタルかがり火まつり」なるものへ行ってきた。コンセプトは「棚田を楽しむためのイベント」らしい。こんなに素敵なイベントを今まで知らずに過ごしてきたなんて……と少し悔しい気持ちになりながらも、これは夏開きにぴっ…

初恋が叶わなかったすべての大人に捧ぐ

昔にもどってやり直したい。そんなことばかり考えていた頃があった。まだ世間から見れば青春と呼ばれる季節に身を置いていた頃のことだ。 子供と大人との境目がはっきりと存在しているはずはなくて、人は段階的に大人になってゆくものだと思うけれど、少年時…

オンとオフが切り替えられない人生になってしまった

なんて言うと、大袈裟すぎるだろうか。しかし、近頃の私の悩みといえば、ほぼそれに尽きるといってもいい。中学生以降、私は学校なんて行かなくて済むなら行きたくないと思うたぐいの人間だった。部活も勉強も、趣味でさえ、一筋で打ち込むということを知ら…

古道具店で見つけた中身の読めない「マスク本」にワクワクする

三鷹の小古道具店「四歩」をご存知だろうか。駅前の大通りを少し歩いて、ふと路地裏へ折れたところで、ひっそりと店を構えている。小さな店で、目立つ看板もない。しかし、店先まで行くとその異様な雰囲気に圧倒されてしまう。「この店には何かあるぞ……!」…

夜の映画監督だったあの頃

私はお酒が好きだ。三度の飯よりお酒が好きだ。むしろ、三度の飯はお酒の愉しみを引き立てるために存在しているといってもいい。 地元にいた頃、私は毎日のようにお酒を飲んでいた。平日は仕事が終わると、まだ陽も暮れないうちに缶ビールを開けて晩酌を始め…

女性が髪を切るということ

女性が髪を切るということがどういうことかは、男にはよくわからない。実は深い意味なんてないと言われているけれど、その一方で、やっぱり何かしらの意味があるのではないかとも疑ってしまう。結局私たちはその真相を知ることなどできないのだ。あの日女子…