或るロリータ

A Certain Lolita

私は懐かしくなりたくて映画を観る

ときどきそんな気がするのだ。私にとって物語の筋道などどうでもよくて、ヒロインが有名女優かどうかなんて関係がなくて、監督の裏設定などはなから興味がないのだ。私は映画を観るときいつだって、その風景や音楽、ヒロインの細やかな動作や声に気を取られている。いわゆる映像美を堪能するためだけに映画を利用していると言ってもいい。そうして私が映画を観るにあたって、自分の中のどの感情をいちばんにけしかけたいかといえば、それは興奮でも恐怖でも官能でもなく、懐かしさというものだ。私は映画を観てとにかく懐かしくなりたい。それでいて面白かったならそれに越したことはないけれど、たとえストーリーが面白くなくても懐かしくなれれば及第点である。

まだふるさとに住んでいたころ、私は土曜日の午後になるとよく映画を観た。金曜ロードショーなんかで放送されていたのを録画したやつや、ツタヤに行って借りてきたやつなど、とにかく家で観ることが多かった。夏であれば私は蝉の声を遮るように窓もカーテンもしめきって、キンキンにエアコンを効かせた部屋の中で、昼間から酒を飲みながら映画を観る。それはキンキンに冷やしたビールだったり、純米吟醸だったり、ハイボールだったりした。ベーコンとチーズをトースターで焼いて、それをアテにワインを飲むこともあった。とにかく私はあの座り心地の悪いソファーに凭れて、自分だけのために存在する空間の中で、ひたすら映像美に眼をかたむけていたのだ。

懐かしくなればなるほど酒が進んだ。沈んでしまうのがわかっているのに、それでも自ら淋しさへと身を投じるのは、まるでいたずらにささくれを剥いて血を流してしまう我慢の効かない子供のようだった。だけど、私にとって映画とは、懐かしくなるための唯一の手段であり、あの頃へもどるためのタイムマシンだったのだ。

今週のお題「映画の夏」