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或るロリータ

A Certain Lolita

金曜日の夜に流れるあの曲

行きつけの居酒屋が出来たのは、まだ今年の夏のことだ。

狭くて居心地のよい空間の中で、大好きな日本酒のグラスを傾けながら、出し巻き卵をつついていると、一人のときも、二人のときも、それ以上のときも、舌の上に広がる幸福に、みんな喋ることを忘れてしまう。その、幸せな空白に差し込むように、薄くかけられた音楽が耳にさわってくる。

埠頭を渡る風を見たのは
いつか二人がただの友達だった日ね松任谷由実『埠頭を渡る風』)

不倫の曲か、失恋の曲か、わからないけど悲しい。力強く、あっという間に吹き抜けていく風のような曲調に、切迫した男女の関係が歌われている。

ユーミンの曲は、お洒落で、都会的で、BGMのように聞き流すことも出来るけれど、ふと耳を傾ければ歌詞の世界にのめり込むことも出来る。その絶妙なバランスが、彼女のマジックだと思う。

現在、私は別段不倫状態にあるわけでも近く失恋を経験した訳でもない。けれど悲しい歌ばかりが耳に留まるのは、酒を飲むにあたって、まぶしすぎる未来の話なんかより、立ち止まって振り返ったときの、懐かしさという感情の方が、よっぽど甘美な肴になるからにちがいない。

今週のお題「私のテーマソング」