或るロリータ

A Certain Lolita

くたびれた夜の一杯に

クリスマスイブは眠れない。幼時の私はそうだった。サンタクロースがプレセントをくれるからである。欲しかったゲームソフトが朝には枕元に置かれてあるのを想像しながら、ほとんど夢さえ見ずに目をつぶっていた。誕生日と並んで、クリスマスは私にとって最も特別な日のひとつであった。

そんなクリスマスへのワクワク感も、年をとるごとに薄れていった。サンタクロースという偶像の深淵を覗いた時、私にとってその日はもう、私ではなく「世間」が浮かれる日に変わったのである。せいぜい、母親が気まぐれでケーキを買ってきてくれるくらいのもので、私にとってクリスマスはバレンタインと同じくらいくだらない日へと格下げされたのである。

そうしてクリスマスがいつだったかさえ意識しなくなってもう何年も経った。今年もいつのまにかクリスマスが訪れていた。十二月二十五日と聞いて、何の感慨もなく、大義名分を得て酒が飲めそうだと繰り出した商店街は、心なしかネオンサインが眩しくて、金曜日の浮かれた装いをしていた。

シャンパンの音など私には不似合いだろう。いつものごとく日本酒を飲みたくて目に止まった蕎麦屋に足を踏み入れる。落ち着いた内装に人の良さそうなおばちゃん、薄くかかった琴の音色と壁に張り出された手書きのメニュー。なんだか初めて訪れた気がしなかった。それくらい居心地のよい店だった。

冷酒と蕎麦、それから幾つか肴を頼む。至福だった。一瞬だけ、明日への憂鬱が掻き消されたような気がした。くたびれた夜の一杯に、思わず笑みがこぼれた。

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