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或るロリータ

A Certain Lolita

「佐々木好」という歌手を知っているだろうか

私は、人生で彼女の名前を知っている人間に、一人しか出逢ったことがない。それは地元でたまに顔を出していたレコード喫茶の店主である。父も母も知らなかったし、テレビで話題に上るのも観たことがない。私はラジオを聴く習慣がないから、もしかしたらラジオではたまに流れていたりするのかもしれないが、少なくとも、一般的には知名度が低い存在であることには変わりない。

彼女のデビューは1982年。当時は「中島みゆきの再来」などと言われていたらしい。つまり、底なしに淋しい曲を歌うのだ。当時、彼女の曲を聴いていた人にとっては、懐かしい名前であるかもしれないし、もしかしたら、今でも彼女の曲が好きでずっと聴き続けている人もいるかもしれない。

現在は活動をしておらず、最後に発売されたアルバムは1987年とあって、実は私はその時点では生まれてすらいない。だから、当時のことはネットでひたすら調べることと、妄想をすることくらいでしか説明ができないのだ。彼女の代表曲は、由紀さおりに提供した『ストレート』という曲であるが、これも、正直私は彼女の存在を知ってから初めて聴いたのである。

そんな若造がどうして今更肩身の狭い思いをしながら昔の歌手について語らなければならないのかというと、それは私にとって彼女の曲が大切な思い出の一部であることと、彼女の曲への想いを一人でもいいから誰かと共有したかったからである。

初めて彼女の曲を聴いたのは高校生の頃だった。その頃の私の聴いている音楽といえば森田童子であり、山崎ハコであり、中島みゆきであった。どうやら私は生まれる時代を間違えたらしい。暗い曲がとにかく好きで、暗い方へ暗い方へと行くうちに、どんどん昭和をさかのぼってしまったのだ。

幸い、今の時代にはYoutubeというものがある。現役で活動していない歌手の曲であっても、ネットで聴ける可能性があるのだ。しかし同時に、どんなに気に入った歌手が見つかっても、なかなかそのレコードを手に入れること出来なかったりする。神様は、出逢うきっかけは与えてくれたが、愛する権利は与えてくれなかったみたいだ。

私はひたすらにネットの世界を彷徨い続け、もう、この世のすべての暗い曲は聴き尽くしたくらいのつもりでいた。そんな時、ふと、佐々木好の『雪虫』という曲を耳にしたのである。


佐々木 好 雪虫

 

隙間風のような曲だと思った。

森田童子のように圧倒的な詩の世界にうっとりさせるでもなく、山崎ハコのように情念をぶつけるでもなく、中島みゆきのようにすすり泣くでもない。手の届きそうな範囲の日常を、淡々と歌い上げる。私には新鮮だった。すぐに彼女の曲を聴き漁った。CDはその頃絶版になっていたから、仕方なくYoutubeで聴いてばかりいた。

ちょうど冬だった。彼女は北海道の出身で、冬を思わせる曲が多いこともあり、余計に感情を揺さぶられるものがあった。ひとりで街を歩きながら彼女の曲を聴いていると、淋しさが心の中に吹き込んできた。

ちなみに、唯一カラオケにも入っており、私のお気に入りでもあるのが、『ドライブ』という曲である。


ドライブ by 佐々木 好

 

私が音楽を聴くのは、大抵が、懐かしさや、淋しさなど、とにかくネガティブに浸りたいときである。選曲としては、曲そのものがセンチメンタリズムに溢れているものと、自分がその曲を聴いていた時代を思い出して懐かしくなるものとがある。たとえば昔観ていたアニメのテーマソングなどは後者である。

そうして佐々木好の場合は、その両方を孕んでいるからやっかいだ。あの頃はただ曲の淋しさに浸っていただけだったのに、今では、曲の淋しさに加えて、その曲を聴いていた高校時代のことを思い出してしまうから、私は二重に追い詰められる。

ならば、はなから聴かなければよいと思うかもしれないが、暗い気持ちになったときは、とことんどん底まで落ちてしまうのが、私の選んできた孤独との付き合い方なのだから、やめられそうもない。

 

佐々木好/暖暖

佐々木好/暖暖