読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

或るロリータ

A Certain Lolita

仕事を辞めたらすぐにハロワに行かないと後悔する

私は今年の始め、仕事を辞めた。しかし、役所の手続きや引越しの準備に追われて疲れていたのもあり、ハロワへ通い始めたのは退職からおよそ一ヶ月後であった。結論から言うと、そのせいで、20万円以上の大金を損してしまったのだ。

「ハロワなんて使わずに就職するから関係ない」

と考えている人は、大きな思い違いをしている。ハロワは単なる職業相談の場に留まらないのだ。ハロワを利用しようがしまいが、まずは必ずハロワへ行くべきである。国は、私たちにお金を払わせようとあらゆるところで目を光らせているが、逆に、私たちがお金をもらえるという場面にあたっては、向こうからは何の報せも寄越してくれないのだから。ずるいシステムだが、「法律で決まってますから」と言われれば、役所の人に何を言おうがどうにもならないし、私たちは出来る限りの予備知識を持って物事にあたるしかない。

 

失業手当について

転職をするという場合、次の仕事が決まってから辞めるというのが一番スマートなやり方なのは間違いない。しかし世の中には、次の仕事を決めずに先に退職してしまう人もいる。いわゆる前向きな退職であれば、双方の会社と折り合いをつけて、うまいこと転職活動を進められるのだろうけど、精神的・肉体的に追い込まれて仕事を辞めざるを得ないという場合、次の仕事を探すよりも前に、今の仕事を続けられないという状態がまず先に来る。そもそもそんな労働環境では、転職活動などする余裕がないだろう。

そうした失業状態の人に対して、国から失業手当というものが支給される。これは、一年以上雇用保険に加入していた人なら誰にでも貰う権利がある。金額に関しては、前職の収入に応じて変わってくるのだが、平均すると月に十数万程度の、なんとか生活できるくらいの金額は貰えるだろう。

ただし、この失業手当については、リストラや倒産で仕事を失った人はすぐに支給されるのだが、自己都合で辞めた人に対しては、三ヶ月間の給付制限期間というものが課せられる。仮に一月で仕事を辞めたなら、実際に支給が開始されるのは四月からという訳だ。

私はそれを知っていたから、なかなかハロワに行かなかった。「仕事もないし、貯蓄もないのに、三ヶ月も待っていられるか!」と思ったのだ。それならすぐにリクナビとか使って転職するから、ハロワなんて関係ない、と。しかし、これが大きな過ちだった。

 

一度目の転職活動

私は、上京に伴って地元の会社を辞めた。割と長く勤めていたので、辞めるときに、失業手当を貰うという考えが浮かんだ。三ヶ月の待機期間はバイトでもして、そのあと三ヶ月遊んで、計半年の自由人生活を経て、新生活を始めたいと。地元での最後の思い出づくりもしたかったし、東京での生活にも慣れておく必要があったのだ。

けれど、実際には、そういう訳には行かなかった。次の仕事を決めずに宙ぶらりんな状態になるのは、両親の説得が上手くいかないだろうし、在職中の転職活動となれば、次の仕事が仮に見つかったとして、「半年以上待ってください」などと言えない。私が一流のビジネスマンや手に職をつけた人間であればそうした大口が叩けるのだろうけれど、私はまったく別の業界へ転職したいと思っていた。だから、内定を貰った時点で、すぐに転職の準備を始めなければならなかった。

そして、結果的に私は失業手当をあきらめて、転職・上京をしたのだった。

 

二度目の転職活動

上京してそうそう、また転職活動をすることになるとは思わなかった。今度は、やむを得ず仕事を辞めることになり、行き先などまったく見えない状況の中だ。貯金もわずかしかなかったし、一刻も早く次の仕事を見つけなければ私の人生は詰みそうだった。

私はネットの求人サイトを毎日眺めていた。毎日毎日毎日気が狂いそうだった。焦りと不安で、どんどん社会から自分の居場所がなくなってゆく気がした。

何社か応募して、書類選考で落とされて、とそんなことを繰り返している時、ふとハロワのことを思い出した。ハロワもネットで求人検索が出来るのだ。物は試しと、ハロワの求人を調べてみた。そうしたら、民間のサイトではなかったような、ニッチな求人を多数発見した。私はそもそも、名の知れた企業などではなくて、小さな会社で仕事をするのが性に合っていると思っていたから、「あれ?ハロワって案外いいかも」という考えに変わった。

それからは毎日毎日ハロワのサイトを見るようになった。そのうちに応募したい企業が見つかり、登録のためにハロワへ行くことになった。

 

はじめてのハロワ

はじめてのハロワは、病院のような雰囲気だった。居心地がよいといえばそうかもしれないが、決して明るい場所ではなかった。

初めて訪れた人は「失業手当の申請」を行うのが基本だったが、私は前の会社からまだ離職票も届いていなかったし、手続きも面倒くさそうだからスルーして、求人への応募だけしたいと伝えた。

失業手当など、あてにはしていなかった。三ヶ月待っている余裕はないし、若いからすぐに就職が決まるという思い上がりがあったのだろう。

そうして何度かハロワに通ううち、私はひとりの女性職員からあることを教わった。

「せっかくだから、失業手当の申請をしてみたらどうですか?再就職手当っていうのも貰える場合がありますよ」

 

再就職手当について

失業手当だけ見れば、自己都合で辞めた人間は、ハロワの恩恵など受ける余裕がないというのがほとんどだろう。しかし、ハロワに行くともうひとつの救済措置があったのだ。それが、再就職手当である。

金額としては、失業手当をまったく貰っていない段階なら、その合計額の六割である。つまり、私の場合は25万前後と、とても大きい。これを聞いて、私はすぐに失業手当の申請をした。

申請を済ませて、一週間後に説明会に参加する。そのあと就職すれば再就職手当が貰える。幾つかの要件を満たす必要があるけれど、そのどれも私はクリアしていたから、「就職が決まって、おまけにそんなボーナスまで貰えるとか、人生捨てたもんじゃない」と思っていた。

そんなとき、今の職場の求人を見つけた。それは、ハロワではなく、民間の求人サイトが出している募集だった。私はハロワ経由で幾つかの企業と面接をして好感触を得ていたが、すべて断った。そして、今の会社へ就職することが決まった。

だが、これでは再就職手当は貰えないのだ。

再就職手当には、「最初の一ヶ月間はハロワを通して就職しなければならない」という謎のルールがある。私は一ヶ月に達する十日ほど前に就職が決まってしまった。正直にそのことを話して、採用の日を延ばしてもらおうかとも思ったが、私にとっては、どうしても働きたい場所であったし、そんなことで採用の取りやめでもされたなら本末転倒だ。将来のことを考えた時、今、目先のお金を取るよりも、仕事を優先させようと、泣く泣く私はハロワへ最後の電話をかけた。

保険料の支払い、国民年金、カードの引き落としなど、私の生活はギリギリだった。というより、一ヶ月以内に数万円を捻出しなければ次の引き落としはアウトという最悪の状況だった。だから、この再就職手当が貰えないというのは、本当に痛手だったのだ。本当は喉から手が出るほど欲しかった。

「別にそのお金でゲームを買うというんじゃない。旅行に行きたいというんじゃない。本当に生活が苦しいんだ。それで救われるんだ。どうかお願いします。どうにかしてください。助けてください」とハロワの職員に泣きつきたくなったけれど、悪いのは彼らじゃない。悪いのは、国家であり、当の私自身でもある。

仮にあの時、仕事を辞めてすぐにハロワへ行っていれば……。

離職票というのは、仕事を辞めてすぐに発行される訳ではない。けれど、離職票がなくても、仮手続きとして、失業手当の申請は進めることが出来る。書類など揃ってから提出すればよいのだ。だから、仕事を辞めてすぐに申請をしていれば、一ヶ月ルールなど余裕でクリアしていただろうし、その時点では知らなかったから仕方ないにせよ、その後初めてハロワに行った日に、素直に申請をしていれば、ギリギリ間に合ったかもしれない。悔やんでも悔やみきれなかった。

ハロワの馬鹿野郎。そんな気分でハロワへ就職の報告へ行った時、担当のおばちゃんが優しく祝福してくれたのが、せめてもの救いだった。25万円という高すぎる勉強代で、私は今度こそ二度と使うことのないかもしれない失業手当の知識ばかりがついたのだ。

私に出来ることといえば、この経験をブログに書いて、同じ失敗をする人を一人でも減らすことだけだ。犠牲者は、私一人で十分なのだ。この国では、自分から動いた者しか恩恵は受けられない。仕事を辞めたら次の日にはハロワへ。これだけは憶えておいて戴きたい。

 

新 13歳のハローワーク

新 13歳のハローワーク