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或るロリータ

A Certain Lolita

どんどん何もできなくなってゆく自分が嫌で

私情 労働

仕事を始めてもうすぐ二ヶ月が経とうとしている。仕事をしていなかった頃の私は時々ハロワに行くことを除けば、毎日ブログを書くくらいしかすることがなくて、ブログを書くことでネット上に自分が今日生き通したという記録を書き残していないと、生きているという実感がまったく湧かなかったのである。ブログを書くことで日銭を得られるわけでもないし、明日の夕餉にはなんの好影響ももたらさぬまま私は何かにせき立てられるように毎日ブログを書くことを義務のようにさえ感じていた。

それが何、いざ就職してみればやはり私もそこいらの一社会人と変わりのない存在であったということだ。私は自分が人一倍情熱を持ち合わせている稀有な青年だと自負していたけれど、たった一日八時間の労働に疲れ果てて、家に帰りつけばパソコンを開くことすらままならない脆い人間であったことを情けなく思っている。夜が深い青に染まり始める頃、いつも中央総武線の下り列車に乗って揺られて帰る。満員電車の息苦しい人混みの隙間から、夜の街を眺める。「家に帰ったら小説を書こう」そんな風に思いながら私は揺られる。

夜道はいつもひとりぼっちだ。前を歩くオフィスレディや女子高生や、そのほかあらゆる美しい人々の艶やかな後姿に、夢を見ているような気分になりながら、玉川上水沿いを歩く。川岸に腰掛けた若い男女がふたり、囁き合っている。それは密やかだが性の香りがして、それでいて清潔だった。真っ暗になる直前の、この、狂気と退廃の狭間にある時間帯がいちばん好きかもしれない。私以外のみんなも、この夕闇に命を握られているような気分になるからだ。みんな一緒に死ぬのなら、それは平和であると思う。

そんなことを考えながら歩いているといつのまにか家に着いている。郵便ポストをチェックして、エレベーターを上がって、鍵を開けてドアを開く。暗闇にただいまと心の内でつぶやく。暑い、なんだかとても暑い。上着を脱いで、ベッドに倒れ込めば、私はもう酩酊を欲している。冷蔵庫を開けて、ビールの栓に爪をかける。ああ、今夜も世間を揺るがす文学は書けそうにない。一行だって筆を走らせることができそうにない。私は今日も負けたのだ。疲労に負けて、労働に負けた。これが大人か。なんと口惜しい。やらないでいいことをやれるだけの情熱がなくなったとき、私は「あの頃の私」以外のすべての少年にとっての、立派な大人、というものになってゆくのだろう。

 

今週のお題「私がブログを書く理由」