或るロリータ

A Certain Lolita

ふるさとはいつまでも青い思い出の中に

私のふるさとは九州の片田舎、大分県である。よくこういう紹介をすると、「大分ってどこ?」そんな期待通りの反応をいただくことが多い。年配の方だと「昔一度行ったことがある」とか、もっと年配の方だと「私のころは新婚旅行で別府に行くのが流行ってた」とか、あるいは「ラムちゃんみたいな喋り方のとこだよね?」とか「すべって転んで大分県」みたいな通ないじり方をされることもある。

判りやすく説明するなら、最寄駅まで徒歩一時間半。それはもう最寄りでもなんでもないのだが、それくらい田舎なのである。通学路は田んぼのあぜ道を通っていた。夜は街灯もなく真っ暗だし、もちろん人の話し声もしない。蛙やら鈴虫やらそのほか名前も知らない生き物の声が何重奏にも聞こえてくる。

春は近くの山でたけのこを掘ったり、夏は夕食のたびに庭のかぼすを収穫したり、とにかく絵に描いたような暮らしなのである。ちなみに収穫したてのかぼすをハイボールに絞ると爽やかでとてもおいしい。

そんな私のふるさとは、もちろん観光地としても優秀で、もっと真面目にアピールすれば人気が出るのでは……といつも悔しい思いをしている。そんな不器用なところもまた魅力のひとつではあるが。

 

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たとえば私のふるさとには青い海がある。瀬戸内海側に面しているからだろうか、とても穏やかな海だ。人でごった返している都会の海とちがって、たとえば平日の昼間なんかに行けば、ほとんどプライベートビーチ同然の場所がたくさんある。地元のおじさんがのんびり釣りをしているシルエットがなんとも癒される。

 

 

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ほかにも歩くだけで胸の高鳴る雰囲気抜群の石畳がある。狭い路地がそこらじゅうに隠れている坂道は、繰り返し散歩しても飽きない大人の迷路のようである。雨の日は和傘をさして歩くのもまたいいかもしれない。昔の煙草のCMのような、映画的な世界に浸ることができるだろう。

 

 

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ノスタルジーマニアにはたまらない、知る人ぞ知る水路がある。大分むぎ焼酎二階堂のCMでお馴染みの、円形分水と呼ばれるロマンあふれる施設である。しかも現役。観光地でもなんでもない場所の、田んぼの脇にぽつりとあるのがまた、たまらない。

 

 

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そして大分の夜は、なんと言っても飲み屋が充実している。東京のようによりどりみどり、めまぐるしい繁華街の明るい夜とまでは行かないが、安くて美味しい、洗練された店がたくさんある。気の良いお客さんも多く、小さな店に行くと近くの席のおじさんと仲良くなることもしばしば。それに酔っ払ってアーケードで眠っても、今のところ危険な目にあったことはない。

ほかにも数え切れないくらいの観光スポットや、名産品がある。どこへ行っても自然は綺麗だし、海の幸も山の幸もおいしいので、何も考えずにとにかく一度遊びにきていただきたい。

と、ここまで個人的な思い出を何一つ書くことなく、単なるふるさと紹介に終始してしまったが、東京に暮らし始めて数年が経つ私が、未だに帰りたいと願ってやまない事実が、何よりの裏づけである。それくらい、大分県は素敵な場所なのだ。好きな人の好きなところを訊かれたときに照れ臭くてうまく答えられない男のように、私はこの記事でふるさとに対する愛の一割も表現できなかった。けれど、もう、それで構わない。ただ、心はいつまでもふるさとに置いてきたまま、今もそこに恋している人間がいるということだけ、どうか忘れないでいて欲しい。そうしていつの日か、どこか南へ旅立つ折に、そんな人間のことを思い出して、大分県の空気を吸いに少しだけ足を伸ばしてくれる方が一人でも現れたなら、私の間違った愛の発露も少しは救われるだろう。

 

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