或るロリータ

A Certain Lolita

BARで聴きたい井上陽水の名曲を紹介する

みなさんお元気だろうか。世間はシルバーウィークとあって、珍しく憂鬱が影をひそめている日曜の夜である。私は例に漏れず部屋でテレビを見たり音楽を聴いたりしながら親の仇のようにひたすら酒を飲み続けているところだ。ひとりで飲んでいると、何杯飲んでも陽気になれないのが不思議なものである。また、ひとりで聴く音楽として私が選ぶのは、決まってノリノリな曲ではない。以前に紹介したが、それはたとえばサザンのちょっと切なげな曲であったり、どっぷり暗さに浸れるフォークソングだったりする。

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夜が更けるとBARへ行きたくなる。けれど私の家はものすごい田舎で、最寄り駅まで徒歩一時間を要する上に、外へ出れば幾らかの星空や田園風景は拝めるけれど、BARどころかさびれたスナックのひとつもない。だから私はこのもやもやとどうにか折り合いをつけるために、部屋をBARっぽく変えてしまおうというのが常套手段なのだ。

部屋をBARっぽくする上で、もっとも重要なのはやはり音楽である。BGMである。鼓膜を撫でるばかりの心地よいジャズなどももちろん酒にはぴったりなのだが、ひとりで飲むに当たっては、それでは少し心もとない。酒の邪魔はしないけれど、時折手を休めた際に、ふと耳に流れ込んできて、しっかりと心を掴んでくれるようなほどよいセンチメンタルさというのがいちばん最適なのだ。

そこで私が紹介したいのが、他でもない井上陽水だ。陽水といえば、ブルーノートで何度もライブを行ったり、ジャズアレンジの曲が多数あったりと、酒飲みをよろこばせることに躊躇いのないことで有名な音楽界の魔人であるが、その中でも私がなにもかも忘れて没頭するように耳を傾けられる名曲を幾つか紹介したいと思う。

 

Bye Bye Little Love 

white

white

 

アルバム「white」より。大麻所持で逮捕された後の執行猶予期間中に発表されたアルバムである。獄中で作られた曲も収録されており、全体的に退廃的な感じがする。アルバムの最後の曲であるこの「Bye Bye Little Love」は、一言で表現するなら、この世でいちばん格好いい絶望だ。

 

 

都会の雨

カシス

カシス

 

 陽水の曲の中でもっともオシャレだと思う。この曲をかけているだけで部屋がたちまちBARに変貌する。しっとりと染み入ってくる声がまさに都会の雨を連想させる曲。

 

 

灰色の指先 

クラムチャウダー

クラムチャウダー

 

 「White」に収録されているこの曲だが、このクラムチャウダーというライブアルバムに収録されているバージョンは半端なく良い。単なる現実的な歌詞を陽水がいやに重々しく歌っているんだけれど、このアルバムではアレンジによって幾分滑らかで聴きやすくなっている。ただ、カラオケで選曲するのはよした方がいい一曲である。一度私はその過ちを犯したことがあるが、あの時の空気はまさに氷の世界と言ってよかった。

 

 

エミリー

ハンサムボーイ

ハンサムボーイ

 

女性の名前がテーマの曲ってなんだかロマンスを感じて好きだ。サザンのいとしのエリーや、村下孝蔵のゆうこや、ジュリーの追憶など。誰かの後ろ姿というのは、ひとり酒にうってつけなのだ。このアルバムは、陽水が優しく囁きかけるような曲が多く、癖がなく人に勧めやすいと思う。

 

 

帰れない二人

氷の世界

氷の世界

 

 言わずと知れた名曲。忌野清志郎との共作である。陽水といえばこのアルバムを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。日本初のミリオンとあって、おぞましいほどの名曲ぞろいである。中でもこの曲は、激しくもなく、かといって沈み過ぎず、絶妙なバランスで美しい世界を描いているところから、思わず目を閉じて聴いていたくなる。

 

 

恋こがれて 

Negative

Negative

 

 吸い込まれるような世界観。頭の中に映像が浮かんでくるのがおそろしい。思わず酒を飲む手を止めてしまうほど。初期の安全地帯の世界観を突き詰めたような、あるいはローゼンメイデンなどの神聖な少女作品を彷彿とさせる。

 

 

カナリア

LION&PELICAN

LION&PELICAN

 

 陽水の持つ声の色気が増幅されている一曲。そもそもこのアルバムだけで一晩を明かせてしまうほど、「夜」にぴったりな曲が多い。「リバーサイドホテル」をはじめ、まさにBARで出逢ってホテルの部屋に辿り着くまでの経過を表したアダルトな「背中まで45分」など、お酒を飲みながら楽しめるキラキラとしたアルバムに仕上がっている。

 

 

今夜

スニーカーダンサー

スニーカーダンサー

 

とにかく今日は朝から強い日ざしで
このまま俺は光になると思った

とにかく詩的で切迫した一曲である。思い詰めると聴きたくなってしまう。

 

 

結詞

招待状のないショー

招待状のないショー

 

このアルバムもまた、夜に聴くのに最適だ。どこを取っても聴き逃せない構成となっており、私の愛してやまない一枚である。淋しげだが、どこか客観的な曲が、陽水の声の色気と重なって、飲まずとも酔いしれてしまいそうだ。

 

 

ひとつでも気になる曲があったなら、ぜひ聴いてみて戴きたい。真面目なのか、ふざけているのか、暗いのか、明るいのかわからない怪しい歌手、井上陽水の世界が、貴方の部屋をいつしかBARに変えてしまうだろう。