或るロリータ

A Certain Lolita

海をさがしに青島へ

あてもない旅だった。本当にあてもなかった。じゃらんポイントの有効期限が今月で切れてしまうというたったそれだけの理由で、安いビジネスホテルを予約して、その三日後には家を出発した。一人旅だ。一人旅の移動手段として自動車を選ぶのは、最善ではないらしい。特におんぼろの軽自動車ともなれば最悪だ。どこでも寝られるというのが車の利点であるけれど、狭苦しい車内ではそれも叶わない。かといって、電車のようにぼんやり景色を見たり、読書に浸っていればいつのまにか県境を跨いでいる、なんてこともない。運転しなければ到着しないし、休憩すればするだけ到着が遅れてしまうのが車なのだ。せめて運転を交代する相棒を一人くらい連れて行けば良かったと思ったけれど、気づいた時には後の祭り。私は宮崎県内の名も知らぬ道路をひたすら走っていた。

夕暮れが近づいていた。気づけば沿道には華の女子高生の姿が見受けられ始めた。見慣れぬ水玉のスカーフが新鮮だ。信号待ちをする彼女たちの姿を名残惜しく思いながら、私はカーナビにふと見つけたぽつりと浮かぶ島を目指した。「青島」。地図では道路が繋がっているように見えるし、ホテルのチェックインまでは時間があるし、少し寄り道してみよう、そんな好奇心からだ。

やがて島が近づくと駐車場へ呼び込む旗振りのおばさんが目についた。どうやら島の周りには有料の駐車場が数多くあるらしい。貧乏旅行人の私には、数百円のお金を支払って車を停めさせてもらうくらいなら、そのお金でそこいらの食堂に駆け込んで定食でも食べた方がよっぽど有意義な使い途に思えたし、はなから青島に行くのが目的だったわけでもない。島に何があるのかも調べていないし、ほんの気まぐれ、好奇心を刺激されただけに過ぎない。ならばと私はその駐車場ゾーンへと曲がらずに、そのまま道を通り抜けて、さらに気まぐれの旅を続けることにした。

しばらく行くと海岸へ出た。別荘地らしく、上品なつくりの道や建物が並んでいる。そこへ降りて海を見た。おんなじ海、つながっている海なのに、お金がないと、ほんのあっち側へ行くこともできないんだなあ、そう思いながらシャッターを切った。いつかこの別荘地で優雅なひとときを過ごしたい、なんて夢は到底叶いそうにないけれど、せめて次に訪れた時には、駐車場代をケチらずに、あの青島へ渡ってみたいと思うのだった。

 

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※写真に青島は写っておりません。