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或るロリータ

A Certain Lolita

合コンで好きな文豪を聞かれたときの最適な答え方

まず初めに申し上げると、私は合コンに参加したことがない。それは私が幼い頃からずっと心に決めた許嫁がいて、来る日も来る日も招待状を破り続けていたからという訳ではない。そもそも私の元には合コンへの招待状など届いたためしがなかったのだ。その原因はおそらく私と付き合いのある友人のほとんどが後ろ暗い人生を歩んできたからだという哀しい境遇にあるのだが、それは仕方のないことである。類は友を呼ぶという言葉通り、みんなして暗い酒を飲むのはなんと心地よいものだろう。誰一人太陽の光を浴びたいと言い出すものなどいやしなかった。バスとテノールしかいない暑苦しい合唱団は夜毎狭い部屋の中でグラスを傾けていた。

かといって合コンに行ってみたいという気持ちがまったくないかと言えばそうではなかった。私は酒の飲める場所へならどこでもゆくつもりなのだ。だが、それは言い出せなかった。友人はみな「合コンへ来るような女なんてこっちから願い下げだ」と常々言っていたからである。その上「ナンパに引っかかるような女も願い下げ」だというし、なんだか願い下げてばっかりで人生が終わりそうな人達だと思った。

だから私はひとりで合コンに参加した場合のイメージトレーニングをしてみることにした。いちばんに聞かれることと言えばたぶん出身地だろう。そしてその次くらいに聞かれる可能性があるとすればやはり趣味である。私は特に突出した趣味がある訳ではない。だからいつも相手や気分によって適当にチョイスして答えていた。たとえば写真とか旅行とか読書とか。そう、この読書がやっかいなのだ。

趣味が読書なんて答えた日には、あらゆる種類の本を幅広く読んでいる博学なやつだと思われてしまう。そうした期待に応えられるほど私はさして本を読んでいない。そもそも私は長文が読めない人間なのだ。大好きな詩集を何回も何回も時間をかけて読み返すようなそんなナイーブな人間なのだ。「好きな作家は?」なんてそんなありふれたようでもっとも恐ろしい質問をするのはよしてくれ。読書家がみなひとりの作家を深く追いかけているなんて思ったら大間違いだ。

これまでにもそうした質問に直面したことがあった。そのたびに私は返答に困ってしまった。東野圭吾とか村上春樹とか答えられたならどんなに楽だろう。しかし私は彼らの作品を一切読んだことがないのである。「どんな本読むの?」と聞かれたとき、まず私は「純文学です。」と答える。そこで純文学に対して興味がない人なら「純文学って、夏目漱石とか?」そんな感じで返してくる。そういう場合は「そんな感じです。」と返しておけば一件落着だ。しかし下手に純文学好きな人に当たってしまうと、この問題は急に面倒なものになる。

そもそも現代作家の作品をあまり読まない私が好きな作家を挙げるとしたら、いわゆる文豪と呼ばれる方々になるのだろう。だとしたら私が助かる道は果たして残されているのだろうか。今時おじさんでも又吉の火花を読んでいる時代である。若い女性相手に文豪の名前を挙げるなど焼身自殺に等しい。だったらせめて限りなく安全な答えをひとつここで決めておく必要があると思う。

まず、夏目漱石とか芥川龍之介とか答えるのがおそらく無難なのだろうが、そのハードルはとてつもなく高い。有名作家であるがゆえに、最低限全作品読破ぐらいしておかないと、好きな作家に挙げる勇気は出ないものだ。

だったら太宰治になるのだろうか。私は二回に一回の確率で好きな作家は太宰治と答える。今や太宰は希望の星。若者人気も高いし、作家としてもっともキャラの立っている人物のひとりではないだろうか。しかし太宰と答えるにはあるリスクが存在する。それは太宰はファンが多いが故、アンチも存在するということだ。共感を狙うなら太宰は最適な答えになるのだろう。しかし、安全を求めるなら太宰と答えるのは避けるべきだ。

安部公房はどうだろうか。あまり知らない人には堅い人だと思われる可能性がある。実際そんなことないのに。

谷崎潤一郎は美文だしエロスも兼ね備えていて、いちばん合コン向きかもしれない。しかし細雪を読破していないという負い目があるため、私はこの手を使えない。

いっそ三島由紀夫と言い切ってしまってはどうか。どうなるか私には判らない。

ノーベル賞の威光はやはり強いから、川端康成と答えるのもよいが、そこからあまり話が弾みそうにない。

そんなことをうだうだと考えている時、やはり私は敬愛するひとりの作家の名に頼る以外の道は残されていないように感じた。そう、室生犀星である。単純に彼の名は上に挙げた人達より少しだけ知名度が落ちるということで、まず批判を食らうリスクは減る。その上、有名な詩もいくつかあるのですぐに紹介しやすい。さらに相手が興味を惹いたところで、蜜のあわれの話を持ち出すのだ。金魚とおじさんの会話だけで構成された小説だというと知らない人は大体食いつく。そこまでくればもうみんな室生犀星のファン予備軍だ。

さて、本日四月一日よりそんな蜜のあわれの映画が公開される。二階堂ふみちゃんが主演である。観に行くしかない。というか観に行く。ちなみに二階堂ふみちゃんは私の妹の友達である。エイプリルフールだけど嘘つくの忘れてたから最後についてみた。