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或るロリータ

A Certain Lolita

10年以上かけて貯めてきた貯金箱を壊した

小学生の頃から私はとにかくケチな性分であった。月のお小遣いは、一年生なら100円、二年生なら200円といった具合の、好きな時にジュースも買えない生活だったから、なおさらお金に対しては敏感だった。お小遣い以外での収入源といえば、家のお手伝いである。たとえば庭の草むしりをしたら一日1000円とか、母の肩たたきをしたら20分100円とか、その報酬は往々にして微々たるものであったが、それでも懸命に、1円でも多くお金が欲しいと思っていた。私は貧困ながらも人一倍物欲が強かったのである。駄菓子屋の前を通るとついお菓子が欲しくなるし、友達が新しいテレビゲームを買っていたら、自分も欲しくなる。ベイブレードやカードゲームが流行れば、流行に乗りたいと思った。もちろん、毎月のコロコロコミックだって決して安い金額じゃない。要するに普通の少年だったのだ。

そんな中で、お金がないお金がないと言いながらも、少しずつ貯金をしていたのは事実である。だが、プラモデルやカップラーメンの誘惑に負けてしまうのび太を見れば分かる通り、何かにつけてそのお金を頼りにして、すぐに貯金箱の蓋を開けてしまうのが少年というものだ。それはただ持ち運びに不適なだけの財布と相違ない。

だから、初めて缶の貯金箱を手に入れた時は革新的だった。決してこの貯金箱は開けてはならないと、それこそ竜宮城で玉手箱でももらったような気持ちだった。それは缶切りを使わないと開けられない一回限りの貯金箱で、妹とひとつずつ、柄違いのものを母親から貰ったのだ。妹は思い切りのよい性格だから、数年後にあっけなく開けてしまうのだが、私は持ち前の湿っぽさで、まるで暗示にかかったように「開けてはダメだ開けてはダメだ」とお経のように唱えながら歳月を重ねた。それも、自分の中のルールで、「この貯金箱には500円玉と100円玉しか入れない」と決めて。

あの貯金箱に入れたお金は、最初からなかったつもりでいよう。そう自分に言い聞かせていたけれど、本当に追い詰められた時には、頭の片隅でどこかその貯金箱に期待している自分がいた。いよいよ満タンになった時には、「おそろしいが、これ、100万ぐらいあるんじゃないか……?」とひとり期待に震えていた。その貯金箱は、私にとって、切り札であり、最終手段であった。

そうしてついに、そんな貯金箱を、開ける日が来た。開けるべき日が来たと言ってもいい。ご存知の通り私は仕事を辞めた。そうして人生で初めて家を出ることになった。銀行口座にも、安心できるほどの金額は入っていない。そうしたとき、ふと思い出したのだ。あの貯金箱のことを。

かつて私は考えたことがある。「この貯金箱を開けるとしたら、どんな時だろう?」と。「大人になったら、きっと大抵のものは買えちゃうはずだ。だから、ちょっといい洋服が欲しいとか、高い料理を食べるとか、そんなことで使うのは少し違う気がする。結婚とか、葬式とか、そんな感じか?」と。

あの頃の私が聞いても、きっと納得してくれるだろう。少し斜に構えて説教を垂れながらも、どうか納得してくれるだろう。「お前大人のくせに、もうちょっと貯金しとけよ。」と言いながら、渋々納得してくれるだろう。今の私が、ろくに貯金もできなくなっただらしない人間であることには違いない。私は、昔の自分に助けられたのだ。というと、なんだか前に読んだドラえもんの話を思い出してしまう。未来ののび太がやってきて、今ののび太に勉強をさせようというやつだ。結局大人なんてろくなもんじゃない。

というわけで、今からろくでもない大人が子供の貯金をちょろまかそうと思う。

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この、ずっしり詰まってる感じ。実際かなり重かった。見たところやはり500円玉が多いみたいだから、期待できそうだ。

 

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とりあえず、10枚ずつ並べていくことにする。これだけでもう一万円だ。一万円って大したことないな! というより、500円玉がすごいのか。

 

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100円玉も並べてみる。こんなに並べたのにまだ五千円という。500円玉の凄さが思い知らされる。

 

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懐かしいもの発見。銀色の500円玉だ。平成元年って、まだ銀色だったのかな。今プレミアとか付いてんだろうか。とりあえずこれは保管しとくことにする。

 

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というわけで、集計終わり。

 

合計金額は……62300円!

意外と少ない、とか思っちゃってごめん。

でも、この一枚一枚が、頑張ってお手伝いして、ようやく貯めた一枚なんだよね。しかもあの頃は100円あるだけでも駄菓子とか色々買えるし、そんなの我慢して貯金してたとか、なんか泣けてくる。そこまで我慢するほどの価値のない大人になっちゃってるよ……。子供にとってのお金って、今の頭で考えてもきっと思い出せないくらい貴重なものだったと思う。

「将来のために」と漠然と貯金してたその「将来」が、来てしまったんだなあと。あの頃の自分、抱きしめたい。ありがとう。大切に使わせてもらうよ。