気になるあの娘の給食を
四時限目の終わりを告げるチャイムが鳴ると教室は一斉にがやがやと騒がしくなる。班ごとに机を向かいあわせる。給食の時間が来たのだ。給食当番の班はみんな白衣を着て帽子をかぶっている。私は友達と連れ立って手洗い場へ向かう。
手洗い場はこの階にはふたつあった。それぞれ廊下のいちばん端にある。だから私たち一組と、隣の二組は東側の手洗い場を、三組と四組は西側の手洗い場を使っていた。手を洗ったあとはいつも、私はお気に入りのドラえもんのハンカチで手を拭いていた。一方で女子たちを見るととても手を拭くのさえ躊躇われてしまいそうな上品で可愛らしいハンカチを取り出していて、私は自分が恥ずかしくなる。
そんな風にしながら私は人の出入りするにぎやかだけど少し広々とした教室で、友達とゲームの話などしながら、給食当番たちの戻るのを待つのだった。好きなはずのゲームの話も、そのときは頭に入ってこなかった。それはその日の給食が大好きなハヤシライスだったせいではない。その日は気になるあの娘が給食当番だったからである。
私はそんな年から面食いだった。ほとんど話したこともない、ただ顔がタイプだというだけの女の子のことを、いつも目で追っていた。そうしてそれを恋のように思っていた。けれど、小学生の恋なんて、みんなそんなものなのかもしれない。
私のいたクラスでは、給食当番がずらりと配膳台の奥に並んで立ち、生徒たちは手荷物検査のようにおぼんを持ってその前を通過するというシステムだった。それぞれおかずやごはんの係りの者が、ひとりひとりに配膳をし、一番最後まで通過したときには、おぼんの上にすべてが揃っているというわけだ。
そうして給食当番の分に限っては、周りの誰かが代わりにもう一度配膳台へゆき、一式盛り付けを施されたあとで、その当番の人の机に置いておくという助け合いの制度をとっていた。つまり私は合法的にあの娘の給食を配膳することができたという訳だ。もっともそれをしたからといってどうなる訳でもなかったし、給食当番は仕事に夢中で、誰が自分の分を用意してくれたのかなんて気づいていない場合が多かった。けれど私は何故だか他の誰にもその権利を渡したくなかったのだ。
銀のおぼんを抱えて、あの娘の席まで歩くとき、誰にも気づかれないようにドキドキした。そうしてあの娘の席まで辿り着き、机の上に小さな少女漫画の落書きを見つけたなら、いつも大人しいあの娘が少し、自分に似ているような気がして、嬉しくなる。かたん、とおぼんを机に置いて、そそくさと自分の席に戻る。やがてみんなが席に着いたら、手を合わせて一斉に食べ始める。ゆっくりとスプーンを動かすあの娘の姿を、ななめ後ろから見つめて、また、嬉しくなる。
今週のお題「給食」