或るロリータ

A Certain Lolita

ハローワークの説明会に行ったけど泣きたい

午前八時、目覚まし時計に叩き起こされるけれど、手探りでスイッチを切り、再び夢の中へ。次に目覚めたのは九時半を回った頃だった。焦って跳ね起きて、一杯の水を飲んでから、服を着替え、マフラーを巻いてコートを羽織り、帽子をかぶって家を出る。ニートだというのに昼まで寝ていられないなんて、おかしな世の中になったものだ。

今日はハローワークの説明会があったのだ。失業保険をもらうためには必ず参加しなければならないらしい。長々と形式上の説明をこなすだけの会であろうことが予想されたし、既に就職活動を始めている私にはまったく気乗りしなかったけれど、晴れ渡った平日の真昼に社会人の皮をかぶって商店街の中を抜けた。

会場はハローワークが借り切っている小さなビルの地下にあった。会場へ入るともうほとんどの席が埋まっていた。私は長い茶髪を垂らしてスマホをいじる女性の隣へ座った。少し急いだせいか首元が汗ばんでいる。マフラーを外すか迷ったが、椅子と椅子との間があまりに狭く窮屈なので、そのままじっとしていることにした。

ああ、ここにいる人はみんな無職なのか。そう思って周りを見渡してみた。老若男女、という言葉をそのまま当てはめたような、凸凹の群衆。三十人くらいだろうか。会社をクビになったサラリーマンもいるだろう、就職に失敗した若者もいるだろう、家計が苦しくなってパートを始めようとする主婦もいるだろう、それぞれの人生がここにはある。みんなきっと歯を食いしばって平気な顔をしているだけだ。私だってそうだ。気楽に生きているニートに見えるだろうか、就職難にあおられた哀れな若者に見えるだろうか、希望のあるまぶしい青年に見えるだろうか。きっと私だけがひとり転んでいるんだ、みんな気づかないふりして通り過ぎてゆくばかりだ、そう思っていたけれど、ここにいる人たちは、一緒なんだ。隠れていただけで、こんなに仲間がいたんだ。

「このあとみんなで、飲みに行きましょう!」

そう叫びたいくらいだった。まるで同じ趣味の人たちが集まったオフ会みたいな気持ちだった。だけど、私にはそんなお金もない。他の人も同じだろう。この苦しみがいつか終わると、願って、縋って、どうにか自分を騙し騙し生きてゆくしかない。だから今は、惜別だ。

帰り道、昨夜から何も食べていない私はふらふらと歩きながら、思わず吸い寄せられそうになったサイゼリアの看板から目をそらして、コートのポケットに手を突っ込んだ。左のポケットの、空の財布が指先に触れた。帰ったら冷凍のご飯が残ってる。家までもう少しだ。